きらびやかな着物。

賑やかな笑い声。

華やかな宴に、上等な酒や食べ物。

金持ちのお座敷戯び。

そんな日常とは掛け離れた世界で、米屋の若旦那、枢木スザクは始終苦笑していた。

付き合いだと悪友に連れてこられたが、本人はあまり乗り気では無く、先程から料理に手を付けるばかり。

「で、スザクは誰が良いんだよ?」

スザクの隣に座っていた、酒蔵の跡取りで悪友のリヴァルが横から声を抑えて囁いた。

しかし、スザクは苦笑いを崩さずにあやふやに言葉を濁すのみ。

「いや、僕は今日はちょっと…」

スザクは女を買う気は毛頭無いと言うが、リヴァルは酔いもあるため、やたらと絡んで来る。

「いーじゃん、言っちゃえって。ほら、あの子、ずっと旦那の事をチラチラ見てるよ」

リヴァルがスザクを茶化す時は必ず『旦那』と呼ぶ。

『未来の米屋の旦那』と言う意味らしいが、それを言うならリヴァルは『未来の酒屋の旦那』だとスザクは思っていた。

「リヴァル、だから、僕はそんなつもりは無いってば!」

そう言いつつも、リヴァルが自分を見ていると言った花魎は気になった。

スザクは自分を平凡だと思っていたから。

顔が良いと言うわけでもなく、頭が良いと言うわけでも無い。

ましてや店はまだ父親のものだから親の脛をかじって遊ぶ道楽息子だと自覚していた。

そんな自分が何故此処の遊郭内でも1、2を争うような花魎に目をつけられるのか分からなかったのだ。

「結構美人だよ〜声掛けてみたら?」

口では何を言っているのかと悪友をたしなめる。

そして花魎の視線は勘違いかたまたま目線が此方に来ていただけだと思い込んだ。

しかし、それはスザクの思い込みに終わる。

ゆっくりとした、優雅な身のこなしで近付いてくる花魎。

するとスザクをいちべつして去ってしまった。

それがあまりにも印象に残ってしまい、スザクは身動きが取れなくなってしまう。

「睨まれた…」

そうスザクが感じたのも仕方ない。

元々吊り目がちで、切目の美人と評判が高いのだ、スザクが気にしていた花魎は。

「睨まれる様なことをしたか?」

「いいや」

しかしスザクは、そのまま奥に入ってしまった花魍が気になって仕方がない。

それが二人の出逢い。

此処から歯車は動き出した…

二人を待ち受ける結末を、二人に感じさせずに……

=続=



**あとがき**
ありきたり遊郭パロです。
少々続くのでお付き合い下さい。
07.10.08